一般歯科
親知らずは抜いたほうがいい? 抜く・抜かないの決め方

「親知らずは早めに抜いたほうがいいよ」と言われたことはありませんか。その一方で、「痛くないなら、そのままでいいですよ」と言われた方もいらっしゃると思います。
正反対のことを言われて、戸惑ってしまいますよね。
実はこれ、どちらかが間違っているわけではありません。専門家の間でも、まだ答えが出ていないのです。この記事では、今わかっていることを、なるべくかんたんな言葉でお伝えします。
結論:痛みや腫れがなければ、必ず抜く必要はありません
ただし、「ほうっておいていい」という意味ではありません。
痛くもなんともない親知らずについて、「抜いたほうがいいのか」「残したほうがいいのか」を決められるだけのエビデンスが、まだそろっていないというのが本当のところです。
ですから実際には、一人ひとりの親知らずの状態を見て決めることになります。歯の向き、埋まっている深さ、となりの歯との位置、歯ブラシが届くかどうか、そして年齢。こうしたことを合わせて考えます。
そして残すと決めた場合は、そのあとも定期的に見ていくことが大切になります。
そもそも親知らずって何?
親知らずは、前から数えて8番目にある、いちばん奥の歯です。10代の後半から20代にかけて生えてきます。
ただ、今の日本人はあごが小さめの方が多く、生えるスペースが足りないことがよくあります。すると親知らずは、まっすぐ生えきれずに、ななめや横向きのまま止まってしまいます。これを「埋伏(まいふく)」といいます。歯ぐきや骨に埋まったままの状態のことです。
これは、めずらしいことではありません。世界中の研究をまとめた2024年の調査によると、およそ3人に1人が、埋まったままの親知らずを持っていると報告されています。しかもアジアではもう少し多く、4割を超えるという結果でした(1)。
埋まったままだと、何が困るの?
いちばんの問題は、歯ブラシが届かないことです。
奥まった場所に、ななめに埋まっている。その周りには汚れがたまりやすく、しかも磨けない。すると次のようなことが起こります。
- 親知らずの周りの歯ぐきが腫れて、痛くなる
- となりの歯(手前の歯)がむし歯になる
- となりの歯の歯ぐきが悪くなる
「早めに抜いたほうがいい」と言われるのは、こうしたことを防ぐためです。
では、今は何も症状がない場合は?
ここが、いちばん悩ましいところです。
痛みもない。腫れてもいない。レントゲンを撮っても、特に問題は見つからない。そういう親知らずを、抜くべきなのでしょうか。
実は、この問いにきちんと答えた研究が、ほとんどありません。
世界中の研究を集めて検証した2020年の調査では、この問題を調べた研究がたった2件しか見つかりませんでした。そして出た結論は、「抜くべきか残すべきかを判断するには、エビデンスが足りない」というものでした(2)。
意外に思われるかもしれません。こんなに身近な治療なのに、と。けれども医療では、こういうことは珍しくないのです。
残すと、どうなる可能性がある?
同じ調査では、親知らずを残しておくと、となりの歯の歯ぐきが将来悪くなるかもしれないとも触れられています(2)。
ただし、これは「そうかもしれない」という段階です。はっきり確かめられたわけではありません。
もうひとつ、判断の材料になる数字があります。イギリスで行われた2020年の調査によると、そのまま残しておいた下あごの親知らずが、後になって結局抜くことになった割合は、5%から31%でした(3)。
幅が大きいのは、調べた期間が研究によって違うからです。1年だけ見た研究もあれば、5年間見た研究もあります。長く見るほど、後から抜くことになる人は増えていきます。
つまり、こういうことです。
残すというのは「抜かない」ではなく、「今は抜かずに、様子を見続ける」ということ。
10人のうち1人か2人、場合によっては3人に1人くらいは、あとで抜くことになるかもしれない。そう考えておくとよいと思います。
当院は、こう考えています
親知らずについて、私たちは 「必ず抜く」とも「なるべく残す」とも決めていません。
先ほどお伝えしたとおり、どちらがよいかを決めるエビデンスが、まだそろっていないからです。ですので、まずはお口の中とレントゲンをしっかり見せていただきます。必要であれば、歯科用のCTで神経との距離も確かめます。
そのうえで、私たちが見ているのは次の3つです。
- 抜くことの難しさ
- 手前の歯への影響
- 年齢
年齢を挙げるのは、若い方のほうが抜きやすく、抜いたあとの骨の治りも早く、術後の痛みも小さいためです。同じ親知らずでも、20代で抜くのと50代で抜くのとでは、体への負担が変わってきます。
なかでも判断を大きく分けるのが、親知らずがどの向きで生えているかです。主に次の4つのパターンがあります。

左から順に
① まっすぐ生えている ── 歯みがきが届き、汚れを落とせていれば様子を見ることが多い
② 斜めに傾いている ── 汚れがたまりやすく、手前の歯を巻き込みやすい。抜歯をすすめることが多い
③ 横向き(水平) ── 手前の歯に当たっている。影響を見て判断します
④ 深く埋まっている ── 下あごの神経に近いことがあり、抜くリスクとの兼ね合いで判断します
※模式図です。実際の状態は一人ひとり異なります。図では見分けやすいよう、親知らずの色を変えています。
ご自身がどれに当てはまるかは、レントゲンを撮れば一目でわかります。
抜くことをおすすめする場合
- 親知らずの周りの歯ぐきが腫れたことがある
- 汚れがたまって、親知らずや手前の歯がむし歯になっている
- 問題が起きてからでは大変なので、その前に抜いておいたほうがよいと判断される場合
とくに気をつけているのが、傾いて中途半端に生えている親知らずです。この状態がいちばん汚れがたまりやすく、手前の歯を巻き込みやすいためです。
様子を見る場合
- これまで一度も症状が出ていない
- かなり深く埋まっていて、症状が出るリスクが小さい
- 下あごの神経に近く、抜くこと自体にリスクがある
- まっすぐ生えていて、歯みがきで汚れを落とせている
3つめについて補足します。下あごの奥には太い神経が通っており、親知らずの根がそのすぐ近くにあることがあります。この場合は、抜くことで生じるリスクのほうが大きくなることがあります。 抜かないという判断も、立派な治療方針のひとつです。
こうして並べてみると、同じ「親知らず」でも判断が正反対になることがお分かりいただけると思います。だからこそ、実際に見せていただかないと何とも言えないのです。
そのうえで、考えられる選択肢と、それぞれで起こりうることをご説明します。決めるのは患者さんご自身です。 私たちはその材料をそろえる役割だと考えています。
残すと決めた場合も、そこで終わりではありません。定期検診のときに、その後の状態を確認していきます。
こんなときは、一度ご相談ください
次のようなことに心当たりがあれば、一度診せていただくことをおすすめします。
- 奥の歯ぐきが腫れたり痛んだりすることが、くり返しある
- 親知らずのあたりから、いやなにおいや味がする
- 口が開けにくい、飲みこむときに痛い
- 手前の歯に食べ物がはさまりやすくなった
- 自分の親知らずがどうなっているか、見たことがない
とくに腫れや痛みをくり返している場合は、「様子を見る」段階を過ぎているかもしれません。
また、もし抜くことになった場合は、若いうちのほうが治りが早いといわれています。年齢を重ねると、あごの骨がかたくなり、回復にも時間がかかりやすくなるためです。「いつかは抜くかもしれない」と思っている方は、早めに相談だけでもしておくと安心です。
費用について
親知らずの抜歯には、健康保険が使えます。 診断に用いるレントゲンや歯科用CTの撮影も、保険の適用範囲です。
お支払いいただく金額は、埋まっている深さや必要な処置によって変わります。診察のときに、あらかじめお伝えしますのでご安心ください。
まとめ
- 症状のない親知らずを抜くべきかどうか、それを決めるエビデンスはまだそろっていません
- ですから、一人ひとりの状態を見て決めることになります
- 残す場合は「抜かない」ではなく「様子を見続ける」ということです
- 腫れや痛みをくり返しているなら、早めにご相談ください
ご自身の親知らずがどうなっているか、まだ確認したことがない方は、定期検診のついででかまいませんので、お気軽にお声かけください。
この記事の根拠にした研究
- Pinto AC ほか/Journal of Clinical Medicine(2024年)→ 原文を読む(英語)
- Ghaeminia H ほか/Cochrane Database of Systematic Reviews(2020年)→ 原文を読む(英語)
- Hounsome J ほか/Health Technology Assessment(2020年)→ 原文を読む(英語)
この記事の監修者

山本 信一(やまもと しんいち)
医療法人歯聖会 理事長/山本歯科クリニック 院長
歯科医師・歯学博士
新潟大学歯学部 非常勤講師
日本歯内療法学会 会員/日本歯科保存学会 会員/AAE(米国歯内療法学会)会員
兵庫県宝塚市にて、一般歯科・予防歯科から歯内療法(根管治療)まで、地域の患者さんの歯を守る診療にあたっています。
監修日:2026年8月17日